完璧な推薦文より、たった一つの「不格好な本音」が人を動かす理由
「このお客様の声、文章としてきれいに整えておきました」
クライアントからそう言われて原稿を見ると、僕が元の文章に戻してもらうことがあります。
誤字脱字を戻すわけではありません(笑)
戻したいのは、その人が本当に使った言葉です。
23社のマーケティングを支援する中で、何度も感じてきました。
お客様の声は「上手な文章」にした瞬間、弱くなることがあります。
たとえば、こんな「お客様の声」
これは説明用に単純化した例ですが、お客様が最初に、こんな感想を書いていたとします。
「最初は正直、私にできるかなと思っていました。でも3週間くらいした頃、夫から『最近なんか楽しそうだね』と言われたんです。それが一番うれしかったです」
いいですよね。
でも、企業側がホームページに載せるとき、こう整えることがあります。
「受講前は不安もありましたが、継続することで前向きな変化を実感できました。家族からも変化を評価してもらい、大変満足しています」
……。
間違ってはいません。
むしろ、文章としてはきれいです。
でも僕なら、こう言いたくなります。
『ちょっと待ってください。「最近なんか楽しそうだね」は、どこへ行ったんですか?』
一番売れる言葉を、消しているかもしれない
企業側からすると「夫から『最近なんか楽しそうだね』と言われた」は、ちょっと個人的すぎる。
文章としてまとまっていない。
もっと商品の効果が伝わるように、整えたほうがいい。
そう考えるのも、よくわかります。
でも、読者の立場になってみると「前向きな変化を実感できました」より「最近なんか楽しそうだね」のほうが、変化が見えませんか?
「満足しました」では、何も見えない
僕は、お客様の声を見るとき…
「満足しました」
「勉強になりました」
「人生が変わりました」
「とても役立ちました」
こういう言葉が出てくると、その先を知りたくなります。
もちろん、ありがたい言葉です。
でもコピーの材料として考えると、まだ抽象的です。
「具体的に、何が変わったんですか?」と聞きたくなる。
僕が欲しいのは「感想」より「場面」
たとえば「仕事の効率が上がりました」と言われたら、そこで終わらせない。
「以前は何時まで仕事していたんですか?」
「今は何時に終わるんですか?」
「早く終わった日は何をしています?」
と聞いてみる。
すると「前は22時くらいまでパソコンを開いていたんですけど、今は19時には終わる日が増えて。最近、娘と一緒に夕飯を食べられるようになりました」
こんな話が出てくることがあります。
僕がコピーに使いたいのは、こっちです。
「効率が上がった」より「娘と夕飯を食べた」
先日、人は「商品」ではなく、その商品によって「変化した自分」を買っている、という話を書きました。
これ、お客様の声を見ると、よくわかります。
商品の価値は「作業時間を30%削減した」だけではないかもしれない。
- その30%で、娘と夕飯を食べられるようになった
- 妻と話す時間が増えた
- 夜に本を読めるようになった
- 早く寝られるようになった
つまり、商品によって変わったのは、作業時間だけではなく、その人の生活そのものかもしれないんです。
売り手は「成果」を聞き、買い手は「生活」を見る
クライアントへのヒアリングでも、僕はここを意識しています。
売り手側は、どうしても…
「売上はいくら上がりましたか?」
「何%改善しましたか?」
「何件獲得できましたか?」
という、成果を聞きたくなります。
もちろん、数字は大切です。
具体性もある。
でも、僕はそのあとに、もう一つ聞きたいんです。
「それで、何が変わりました?」と。
売上100万円アップより、その後の一言
たとえば「売上が100万円増えました」
これは、強い実績です。
でも、その人が続けて「これまで毎月25日を過ぎると、支払いのことばかり考えていたんです。でも先月は、久しぶりに妻と次の旅行の話をしました」と言ったら、僕は、こっちも絶対に残したい。
なぜなら、数字は成果を「証明」しますが、生活の一言は、成果の「意味」を伝えるからです。
数字と感情は、どちらかではない
これは「数字なんていらない」という話ではありません。
むしろ、数字は重要です。
「売上が増えました」より「3か月で売上が37%増えました」のほうが具体的。
でも、数字だけだと、人によっては、自分の未来を想像しにくいです。
だから、僕なら、数字+場面で見せます。
「3か月で売上が37%増えました」
そして「毎月末に通帳を見るのが怖かったのですが、今は次の施策を考えられるようになりました」
数字で、頭が納得する。
場面で、心が動く。
この両方があると、お客様の声は、ぐっと立体的になります。
企業は、お客様を「優等生」にしすぎる
お客様の声を掲載するとき、ついやってしまうことがあります。
- 言葉を整える
- 語尾をそろえる
- 専門用語に変える
- 商品名を正式名称にする
- 文章の順番を整理する
もちろん、読みやすくする編集は必要です。
でも、やりすぎると、全員が、同じ会社の広報担当者みたいな文章になってしまいます(笑)
20代女性も、50代経営者も、子育て中のお母さんも、なぜか同じ言葉遣い。
これは、ちょっと不自然ですよね。
「この人、本当に言った?」が最悪
お客様の声で、僕が避けたいのは、読者の頭に、一瞬でも「これ、本当に本人が言ったのかな?」が浮かぶことです。
- 企業が作ったように見える
- 広告っぽすぎる
- 完成されすぎている
すると、本当の感想だったとしても、信頼性が落ちてしまう。
だから、僕は、少し不格好でも、本人らしい言い回しを、できるだけ残したいと思っています。
「なんか」が強いこともある
たとえば「自信がつきました」より「なんか、前より人の目が気にならなくなったんですよね」のほうが、その人らしいことがあります。
文章術として見ると「なんか」は、削りたくなる言葉です。
僕も通常なら、削ることがあります。
でも、本人が実際にそう言ったなら、残すこともある。
なぜなら、人間は、完成された文章で人生を語らないからです。
23社の現場で僕がよくやること
クライアントの商品やサービスについて、お客様の声を集めるとき、僕が見たいのは「素晴らしかったです」の数ではありません。
その中にある「妙に具体的な一言」を探します。
たとえば…
「朝、スマホを見る回数が減りました」
「夫に最近機嫌いいねと言われました」
「日曜日の夜が怖くなくなりました」
「初めて値段を見ずに子どもの本を買いました」
「営業電話をかける前に、深呼吸しなくなりました」
こういう言葉です。
一見、商品の機能とは、関係が薄そうに見えます。
でも、その商品が人生に入ったことで起きた変化なら、それはものすごく重要な声になるのです。
それが「未来の試着室」になる
まだ商品を買っていない読者が、その一言を読む。
「日曜日の夜が怖くなくなった」
すると、日曜日の夕方になると、翌日の仕事を考えて憂鬱になる人なら、一瞬、自分を重ねるかもしれません。
「もし、自分もそうなれたら?」
ここで、先日書いた「未来の試着」が始まります。
売り手が、「あなたの人生は変わります!」と言うより、すでに体験した人が「日曜日の夜が怖くなくなりました」と言う。
そのほうが、ずっと静かで、ずっとリアルです。
お客様の声は「証拠」だけではない
マーケティングでは、お客様の声は、社会的証明として使われます。
「こんな人が成果を出しています」
だから安心してください。
もちろん、それも重要な役割です。
でも僕は、もう一つあると思っています。
お客様の声は、商品の価値を、売り手に教えてくれるものでもあります。
売り手が知らない価値を、お客様が教えてくれる
企業側は「この商品の強みは時短です」と思っていた。
でも、お客様に聞いてみたら、一番喜ばれていたのは、時短そのものではなく「気持ちに余裕ができたこと」だった。
「このサービスの強みは売上アップです」と思っていた。
でも、お客様が一番価値を感じていたのは「自分の商品に自信を持てるようになったこと」だった。
こういうことは、現場で起こります。
だから僕は、コピーを書く前に、可能なら、お客様の言葉を見せてもらいます。
商品の本当の価値は、販売後に発見されることがある
これは、かなり大事だと思っています。
商品を作った人は、商品の意図を知っています。
でも、商品を使った人は、商品の結果を知っています。
この二つは、同じではありません。
作り手が「ここが一番すごい」と思っていた部分と、お客様が「これが一番助かった」と思った部分が、ズレていることもあります。
そのズレの中に、次のコピーのヒントがあるのです。
AIにお客様の声を整えさせる前に
今は、お客様の感想をAIに入れて「読みやすく整えて」と頼めば、一瞬できれいになります。
便利です。
僕も、整理には使います。
でも、その前に、一度だけ確認してほしいです。
「この文章の中で、この人にしか言えない一言はどこだろう?」
そこに印をつける。
そして、その一言だけは、簡単に消さない。
AIは、不自然な言葉を、自然にしてくれます。
でも時々、人間らしい不自然さまで、きれいにしてしまう。
だから最後は、人が判断する必要があります。
僕なら、この3つを探します
お客様の声を読むとき、僕は特に、この3つを探します。
1. Beforeの具体的な場面
購入前、どんなことで困っていたのか。
2. 変化がわかる出来事
何が起きて「変わった」と感じたのか。
3. 本人にしか出せない一言
家族から言われた言葉。
思わず口から出た言葉。
少し不格好でも、妙にリアルな言葉。
この3つが入ると、単なる感想文から、小さな物語になります。
お客様の声は「作文」しない
もちろん、本人が言っていないことを、勝手に付け足してはいけません。
- 誇張もしない
- 都合よく意味を変えない
- 数字も、事実として確認できる範囲で使う
編集するなら、本人の意図を変えず、必要に応じて掲載許可も確認する。
ここは、マーケティング以前の話です。
信頼を得るためのお客様の声で、信頼を失ったら本末転倒です。
きれいな言葉より「その人の言葉」
僕は、文章を仕事にしています。
だから、文章をきれいにすることはできます。
でも、いつも、きれいにすればいいとは思っていません。
むしろ、僕の仕事は、きれいにすることではなく「消してはいけない言葉を見つけること」なのかもしれません。
「前向きな変化を実感できました」より「夫から『最近なんか楽しそうだね』と言われた」
そこには、その商品を手にしたあとに始まった、一人の人間の生活があります。
そして、次のお客様が本当に見たいのは、商品の説明だけではない。
その商品によって「自分の日常も、こんなふうに変わるかもしれない」と思える、誰かのリアルな未来です。
もしあなたの会社や商品に、お客様の声があるなら、一度、完成された推薦文として読まずに「この人にしか言えない一言は、どこだろう?」という目で読み返してみてください。
案外、文章として一番きれいではない一文が、一番、売る力を持っているかもしれません。


