いい文章は「生み出す」のではなく、すでにある言葉を「見つける」ことから始まる。
コピーライターなのに、僕は「書くこと」より「聞くこと」のほうが大切だと思っています。
僕はもともと、無口、人見知り、引っ込み思案で、人前で話すのも苦手でした。
会話の中心に入って、場を盛り上げるようなタイプでもありません。
むしろ、誰かが楽しそうに話している横で、静かに聞いているほうでした。
当時は、そんな自分が嫌でした。
- もっと話せたら
- もっと面白いことを言えたら
- もっと自分を表現できたら
そう思っていました。
まさか後になって、その「話せなかった時間」が、コピーライターの仕事に役立つなんて、思ってもいませんでした。
話せないから、人を見ていた
自分からうまく話せないぶん、僕は人の話を聞いていました。
・何を言うのか
・どんな言葉を選ぶのか
・どこで声が大きくなるのか
・どんな話になると急に表情が変わるのか
そして、口では「大丈夫です」と言いながら、本当は大丈夫じゃなさそうな瞬間。
そんなものを、無意識に見ていたのかもしれません。
コピーライターになって、意外なことに気づいた
コピーライターという仕事を始めた頃、僕は、文章を書く技術を身につければ、いいコピーが書けると思っていました。
- キャッチコピー
- 文章構成
- 心理テクニック
- セールスライティング
もちろん、全部大切です。
でも実際に仕事をしていると、あることに気づきました。
書く前に「材料」がなければ書けない・・・ということに。
「御社の強みは何ですか?」では出てこない
たとえば、経営者へ「御社の強みを教えてください」と聞く。
すると…
「品質ですね」
「お客様第一です」
「丁寧なサポートです」
「長年の実績があります」
といった答えが返ってくることがあります。
もちろん、間違ってはいません。
でも、これだけでは、その会社にしか書けないコピーになりません。
そこで、僕はもう少し聞きます。
「最近、お客様から何か言われませんでした?」
「一番困ったお客様って、どんな人でした?」
「なぜ、そこまでやったんですか?」
「会社を始めた頃、何が一番大変でした?」
「そのとき、本音ではどう思っていました?」
すると、ある瞬間、言葉の温度が変わることがあります。
「実はね、宮本さん……」
僕は、この瞬間が好きです。
インタビューをしていると、相手が少し考えて、こう言うことがあります。
「実はね、宮本さん……」
ここから、マーケティング資料には書いていない話が出てくる。
- 創業した本当の理由
- 誰にも言っていなかった失敗
- 忘れられないお客様
- 辞めようと思った夜
- 家族から言われた一言
- 初めて商品が売れた日のこと
そして、本人は最後に「まあ、こんな話は関係ないですけどね(笑)」と言ったりする。
でも僕は、心の中で「いや、それです」と思っているんです(笑)
本人にとって「普通」だから、本人には見えない
これは、本当によくあります。
10年やってきた人にとって、10年続けたことは普通。
毎日やっていることも普通。
お客様のために、当たり前にやっていることも普通。
だから本人は、価値だと思っていない。
でも、外から見ると「そこまでやるんですか?」ということがある。
つまり、その人の強みほど、本人には見えにくいのです。
文章を書く前に「発掘」が必要になる
だから僕は、コピーライターの仕事を、文章を書く仕事だけだとは思っていません。
むしろ、書く前のほうが大切です。
- 聞く
- 掘る
- 観察する
- 問いを変える
「それ、どういうことですか?」と、もう一歩入る。
そして、相手の中に埋まっているものを、一緒に見つける。
僕の感覚では、コピーライティングというより、発掘作業に近いです。
昔は「自分の言葉」を出そうとしていた
これは、僕自身の発信でも同じでした。
昔は…
- 何かいいことを書かなければ
- 勉強になることを書かなければ
- 専門家らしいことを書かなければ
そんなふうに、頭の中から「いい言葉」をひねり出そうとしていた時期があります。
すると、不思議なくらい書けない。
やっと書いても、どこか借り物っぽい。
正しいけれど、自分でもあまり面白くないんです。
でも、自分にも質問してみると変わった
「自分はなぜ、そう思うんだろう?」
「いつから、そう思うようになった?」
「何か失敗したことは?」
「昔はどう考えていた?」
「誰かに何か言われなかった?」
そうやって、自分自身にも、インタビューするようになりました。
すると、出てくる。
- 会社を倒産させたこと
- 離婚したこと
- 4人の子どもたちと離れたこと
- 33歳でホームレスになったこと
- そこから約2年で、もう一度仕事をつくったこと
- 無口だったこと
- 人見知りだったこと
- 三日坊主だったこと
- 失敗ばかりしてきたこと
全部、僕の中には、ずっとあったんです。
「書くことがない」のではなかった
書くことがなかったのではありません。
自分に聞いていなかった。
これに気づきました。
僕たちは、新しい情報を探すことには熱心です。
- 本を読む
- SNSを見る
- YouTubeを見る
- AIに聞く
- 検索する
でも、自分自身には、意外と質問していないんです。
「あなたはどう思う?」を飛ばしてしまう
AI時代は、特にそうなると思います。
わからないことがあれば、すぐAIに聞ける。
「このテーマで投稿を書いて」と頼めば、数秒で文章が出てくる。
便利です。
僕も使います。
でも、AIへ質問する前に、一度だけ、自分へ質問してみるんです。
「で、俺はどう思ってる?」
これだけで、文章の入口が変わります。
答えが出なくてもいい
ここで、格好いい答えを出す必要はありません。
「よくわからない」でもいい。
「昔はこう思っていたけど、最近迷っている」でもいい。
「本当は、みんなと違うことを感じている」でもいい。
むしろ、その迷いの中に、文章になるものがあります。
人間は、完成した答えだけに共感するわけではありません。
考えている途中の人間にも、共感するんです。
33歳の僕には、答えなんてなかった
ホームレスになった頃の僕に「この経験から得た学びは何ですか?」と聞いても、たぶん答えられなかったと思います。
そんな余裕はありません。
「知らんがな」です(笑)
人生の伏線なんて、その瞬間には、伏線だとわかりません。
あとから振り返って、初めて意味が見えるわけです。
だから、過去は何度でも取材できる
同じ出来事でも、20代で振り返るのと、40代、50代、60代で振り返るのでは、見えるものが違います。
「あの失敗は最悪だった」と思っていたものが、10年後には「あそこで考え方が変わった」になっていることもある。
出来事は変わらない。
でも、そこから取り出せる言葉は変わる。
だから、自分の人生は、一度書いたら終わりではありません。
自分自身に何度でも取材できるんです。
23社を支援する今も、僕は「答えを持っていく人」ではない
マーケティングの仕事をしていると、専門家として、正解を教える人だと思われることがあります。
もちろん、知識や経験から、提案はします。
でも、僕自身は、クライアントのところへ、全部の答えを持っていくつもりはありません。
なぜなら、その会社にしかない答えは、僕の中ではなく、その人たちの中にあるからです。
僕ができるのは、それが出てくる質問をすることです。
コピーライターは「言葉を与える人」ではないのかもしれない
昔の僕は、コピーライターとは、うまい言葉を考えて、相手へ渡す人だと思っていました。
今は、少し違います。
相手の中にすでにある…
- まだ名前のついていない価値
- まだ文章になっていない経験
- 本人さえ気づいていない強み
それを、質問によって外へ出し、読者へ届く形にする。
つまり、言葉を与える人というより、言葉を見つける人。
僕は、そんな仕事なのかもしれないと思っています。
無口だった僕だからできる仕事もあった
もし昔の僕が…
- もっと話し上手だったら
- もっと社交的だったら
- もっと積極的だったら
人生は、違っていたかもしれません。
でも今は、無口だった自分を、昔ほど嫌いではありません。
話せなかったから、聞いた。
輪の中心にいなかったから、見ていた。
自分を表現するのが苦手だったから「人はどうすれば自分のことを言葉にできるのか」を考えるようになった。
短所が、そのまま長所になった、なんてきれいな話ではありません。
今でも苦手なものは苦手です(笑)
でも、短所だったものから育った能力は、確かにある。
そう思っています。
今日、「投稿を書く」前に一つだけやってみてください
画面を開いて「今日は何を書こう?」と考える前に、自分へ一つ、質問してみてください。
たとえば…
「最近、違和感を覚えたことは?」
「昔と考えが変わったことは?」
「最近、お客様から言われて嬉しかった言葉は?」
「今だから笑える失敗は?」
「誰かに一番伝えたいことは?」
そして、出てきた答えを、うまく書こうとしなくていい。
まず、そのままメモする。
文章を書くのは、そのあとです。
僕は、コピーライターなのに「書くこと」より「聞くこと」を大切にしています。
- 人に聞く
- お客様に聞く
- 市場に聞く
そして、自分にも聞く。
いい文章は、何もないところから生み出すものではなく、すでにそこにあるものを、見つけることから始まります。
もし今「自分には書くことがない」と思っているなら少し考えてみてください。
本当に何もないのでしょうか。
それとも、まだ自分自身に、ちゃんと聞いていないだけではありませんか?


