こんにちは、宮本真愿です。
「五つ星文章術」、前回は「いいこと言ってるのに、なぜか信じてもらえない現象の正体」というテーマで、広告心理学の「社会的証明」についてお話ししました。
人は、売り手が「この商品は最高です!」と言っているだけでは、なかなか信じません。
- お客様の声だったり
- 具体的な数字だったり
- 実績だったり
- 事例だったり
そうした「証拠」があって、初めて「なるほど。本当かもしれない」と思えるわけです。
つまり「信じてください」とお願いするのではなく、相手が自分で判断できる材料を渡す。
そんなお話でした。
今日は、そこからもう一歩進めます。
- 信じてもらえた
- 商品の良さも理解してもらえた
- これ、いいなと思ってもらえた
でも、それでも人は、動かないことがあります。
なぜでしょう?
今日から、五つ星文章術を構成する5つの要素の一つ「行動経済学」の世界に入っていきます。
今回のテーマは、人は「得したい」より「損したくない」|なぜ「失う未来」を見せると、人は動きたくなるのか?というお話です。
「欲しい」と「買う」は別物
僕は長年、マーケティングやコピーライティングの仕事をしてきました。
その中で何度も感じることがあります。
それは「欲しい」と「買う」の間には、かなり大きな川が流れているということです。
たとえば、すごく面白そうな本を見つけた。
「読みたいな」と思う。
Amazonの「あとで買う」に入れる。
そして……半年後。
まだ「あとで買う」にいる(笑)
ありませんか?
僕もあります。
「お前、いつ買うねん」という話です(笑)
つまり、人間は、価値を感じたからといって、必ず行動するわけではありません。
「いいな」
「欲しいな」
「やったほうがいいな」
と思っていても「今じゃなくてもいいか」となる。
この「今じゃなくてもいいか」が、行動を止める非常に大きな壁なんです。
人間は必ずしも合理的には動かない
昔の経済学では、人間は比較的合理的に判断する存在として扱われることが多くありました。
でも実際の僕たちは、そんなに合理的じゃありません。
- ダイエット中なのに、夜中に冷蔵庫を開ける。
- 貯金しようと思っているのに、セールを見ると買ってしまう。
- 早く寝ようと思っているのに、ベッドの中でスマホを見続ける。
- あと5分だけ……と言って、気づけば40分(笑)
ありますよね。
こうした、人間のちょっと不思議で、不合理な意思決定を研究するのが、行動経済学です。
五つ星文章術では、この行動経済学も文章に取り入れています。
なぜなら、文章の目的が、ただ「読んでもらう」だけではなく、場合によっては…
- 申し込む
- 購入する
- 登録する
- クリックする
- 挑戦する
そうした行動につなげることだからです。
1万円もらう喜びと、1万円失う痛み
ここで、ちょっと想像してください。
今日、財布の中から、思いがけず1万円が出てきたとします。
「うわ、ラッキー!」と思いますよね。
では反対に、財布に入れていたはずの1万円を落としてしまった。
どうでしょう。
めちゃくちゃショックですよね。
帰り道、ずっと考えると思います。
「どこで落としたんやろ……」
「コンビニかな?」
「いや、駅かな?」
「もう一回探しに行こうかな……」
おそらく、1万円をもらった喜びよりも、1万円を失った痛みのほうが、長く頭に残る人も多いでしょう。
こうした傾向は、行動経済学では「損失回避」という考え方で説明されます。
人は、何かを得ることだけでなく「今持っているものを失いたくない」という気持ちにも強く影響される。
これが、文章を書くうえでも非常に重要なんです。
「こうなれます」だけでは動けないことがある
たとえば、運動習慣をつくるサービスがあったとします。
そこで「毎日運動すると、健康的な身体を手に入れられます」と書く。
もちろん間違っていません。
未来のメリットですよね。
でも、こんな角度もあります。
「運動しない生活を、このままあと5年続けたらどうなるでしょう?」
すると、読者の頭の中に、別の未来が浮かびます。
- 体力が落ちるかもしれない。
- 疲れやすくなるかもしれない。
- 好きな場所へ出かけることが、億劫になるかもしれない。
つまり「手に入る未来」だけではなく「このままだと失うかもしれない未来」を見るわけです。
すると「いつかやろう」と思っていたものが「ちょっと今から考えたほうがいいかもしれない」という思いに変わることがあります。
ビジネスでも同じです
たとえば、文章術の講座を販売するとします。
「文章力を身につければ、売上アップにつながります」
これも一つのベネフィットです。
でも、違う角度から見ることもできます。
「素晴らしい商品を持っているのに、その価値を言葉にできないままなら、必要としている人に存在すら知られないかもしれません」
どうでしょう。
文章力を身につけて「何かを得る」だけではない。
文章力がないことで、すでに何かを失っている可能性を考える。
- 見込客との出会い
- 売上
- チャンス
- 信頼
- 時間
こうした、本人がまだ気づいていない「見えない損失」を、文章によって可視化してあげる。
これもコピーライティングの大切な役割です。
ただし「損失回避」には危険な使い方がある
ここで、ものすごく大切な話をします。
「なるほど。人間は損したくないのか。じゃあ、怖がらせれば売れるんですね」
……
違います(笑)
ここは、僕がかなり大事にしているところです。
コピーライティングを学ぶと、恐怖を煽る文章を目にすることがあります。
「今すぐ始めなければ手遅れです」
「知らないと人生終わります」
「これを買わなければ一生成功できません」
こういう文章ですね。
短期的には、人を動かすことがあるかもしれません。
でも、僕はこのやり方を、あまりおすすめしません。
なぜなら、文章の目的は、人を怖がらせて無理やり動かすことではないからです。
「恐怖を作る」のではなく、「見えていない現実を見せる」
では、どう使えばいいのか。
僕が大切だと思っているのは、恐怖を作り出すのではなく、すでに存在している問題を見えるようにするという考え方です。
たとえば、SNSを毎日投稿している。
でも、半年たっても反応がほとんど変わらない。
その人に対して「このままでは人生終わります」なんて言う必要はありません。
そうではなく「もし今と同じやり方を、あと半年続けたとしたらどうでしょう?」と問いかける。
すると本人が「確かに、このまま同じことを続けても変わらないかもしれない」と気づく。
大事なのは、こちらが結論を押しつけることではありません。
本人が、自分の現状と未来を考えられる材料を渡すことなんです。
これは前回お話しした「信じてくださいではなく、自分で判断してください」という話にもつながっています。
僕自身「失って初めてわかった」ことがある
僕自身、33歳のときに会社が倒産して、仕事も、家庭も、お金も、いろいろなものを失いました。
最終的には、ホームレスまで経験しました。
それまで僕は…
「もっと成功したい」
「もっと稼ぎたい」
「もっと上へ行きたい」
という「得ること」ばかりを考えていたように思います。
でも、いろんなものを失って、初めてわかったんです。
人生って、何かを手に入れることだけが、豊かさじゃない。
- 健康がある
- 帰る場所がある
- 話を聞いてくれる人がいる
- 仕事がある
- 今日も普通にご飯を食べられる
失ってから、それまで当たり前だと思っていたものの価値に気づきました。
だから僕は「損失回避」という考え方を、単なるセールステクニックとして捉えたくないんです。
むしろ「すでに持っている大切なものに気づく」という意味でも、すごく重要な視点だと思っています。
AI時代には「何を失うのか?」も変わってくる
そして、これはAI時代にも当てはまります。
AIを使えば…
- 文章を書く時間は短くなります
- アイデアも出してくれます
- 構成も考えてくれます
これは大きな「得」です。
でも一方で、何でもAIに任せてしまったとき、何を失う可能性があるのか?
僕は、ここも考えておいたほうがいいと思っています。
- 自分で考える時間
- 自分だけの言い回し
- 自分の経験を言葉にする力
- そして「この人だから読みたい」と思ってもらえる個性
AIを使うことが問題なのではありません。
僕も使います。
大事なのは、便利さによって得るものと、その代わりに失う可能性のあるもの。
その両方を見ることです。
だから僕は、AI時代の文章術では「何を足すか」だけではなく、「何を失わないか」も大切になると思っています。
今日から使える「失う未来」チェック
では最後に、今回も簡単な実践を一つ。
何かを紹介する文章を書いたら、まず、こう考えてみてください。
「これを手に入れると、読者は何を得られるだろう?」
これは多くの人が考えています。
そのあと、もう一つ問いかけます。
「反対に、何もしなかったら、読者は何を失う可能性があるだろう?」
- 時間なのか
- お金なのか
- 機会なのか
- 健康なのか
- 自信なのか
- 人とのつながりなのか
ただし、ここで絶対に忘れないでほしいことがあります。
- ない恐怖を作らない
- 大げさに煽らない
- 嘘をつかない
あくまで、読者が自分では気づいていなかった現実を、一緒に見てあげる。
そのくらいでいいんです。
人を動かす文章は「未来を比較できる文章」
今回の話をまとめると、人は「得られるもの」だけで意思決定しているわけではないということでした。
「失いたくないもの」にも強く影響されます。
だから文章を書くときには、理想の未来だけではなく「何もしなかった未来」も考えてみてください。
Aという「得する可能性がある」未来。
Bという「損する可能性がある」未来。
その両方を見せて、どちらを選ぶかは、読者自身に委ねる。
僕は、それが誠実なコピーライティングだと思っています。
文章とは、相手をこちらの望む方向へ無理やり動かすものではありません。
相手が、自分にとって大切なものに気づき、自分の意思で選べるようにするものです。
そのために、行動経済学という「人間を理解する知識」が役立つんです。
この放送の第1回目からずっとお伝えしていることは、結局、同じです。
文章を書く前に、人を見る。
- 人は何を感じるのか
- 何を信じるのか
- 何を恐れるのか
- 何を守りたいのか
そこを理解すると、言葉は変わります。
次に何かを紹介するとき、ぜひ一度、次のように問いかけてみてください。
「この人が本当に失いたくないものは、何だろう?」
そこに、人を動かす言葉のヒントが隠れているかもしれません。
文章を磨きながら、人を知る。
人を知りながら、自分の言葉を磨く。
今回は、人は「得したい」より「損したくない」|なぜ「失う未来」を見せると、人は動きたくなるのか?というテーマでお話ししました。
今回も最後までお聞きいただきましてありがとうございました。
宮本真愿でした。
それでは、また次回お会いしましょう。


